あれからAVの仕事は続けていたけれど、私は良明と出会い、AVの仕事をする事が苦痛になっていた。

「どうしたの?最近、やる気ないじゃん。仕事、断ることも増えたし」

荒木から久々に食事に誘われ、開口一番、これを言われる。

「でも、もう借金も返したし、お金に困ってないし、そろそろ辞めてもいいかな~って思ってるんだけど・・・」

私は荒木に言った。

「ふぅーん・・・男が出来たってとこかな?」

いつも、どこかで私を監視してるのかと思うくらい、荒木は私を良く見抜く。

「男が出来たわけじゃないよ。好きな男がいるの。片思い中ですから」

「いいなぁ~片思い。その響き!俺には無縁だな~」

「荒木さんは彼女とかいないの?そういえば、そういう影もないよね?」

「いないよ~居たら大変じゃん」

「ああ、そうか・・・」


荒木のプロダクションに所属している女の子で何人かの子は、自分が荒木の彼女だと思い込んでいる子がいる。
これは、荒木が意図的に、彼女達に仕事をやる気にさせる為に、彼氏のフリをしているのである。
メンタル面が弱い子に関しては特に、こうした思い込みを持たせる事で、妙にやる気になってアダルトビデオの仕事をしてくれる子もいるのだ。

「自分はプロダクションの中でも特別な存在」

それを思い込む事で、彼女らは荒木の為に頑張って働く。

何度か荒木に

「今日、一緒に出演する女の子、うちのプロダクションの子なんだけどさ、一応、俺の彼女ってことになってるから、適当にあしらってやって」

そう言われた事がある。

「彼女」と思い込んでいる女は、どこか鼻高々しい態度で、「私は別格なの」と言う態度を露骨に出すことがある。

彼女らは、本当に、ただただ荒木を愛していただけなのかもしれない。
とても残酷な形であることも知らずに・・・。