私は、良明に会った日から、ちょうど1ヶ月ほど経った頃、また美容室に遊びに行った。

その気持ちの中には、もしかしたら・・・の期待があったと思う。

あの日、偶然、来店した良明と出逢い、私の中に、ほんの1時間、同じ店の中の空間にいた良明の存在が、妙に自分の中に残っていた。

その日は、アシスタントが体調を崩し2人休んでいると言うので、何か手伝える事があれば・・と言う名目で美容室を訪ねた。

男の人は、たいてい1ヶ月に1度はカットをしにくる。

もし、良明が、この美容室を気に入って再来してくれるとしたら、そろそろ来る日じゃないだろうか?と、私は思った。

事前に、店のスタッフとは、たまに連絡を取って、良明の話などは、何気なくリサーチしていた私。たぶん一目惚れと言うやつなんだろう。

もう1度、あの青年に会いたい。良明に会いたい。

言葉には出さずとも、私の中の本能みたいな部分が、それを待ち望んで、欲して、止まらなかったのだ。

人間の物欲の暴走とは、時に人を狂わせると言うけれど、その暴走が始まるまでの準備期間などはない。

それは突然、いとも簡単に訪れるのだ。

たとえ、それは相手がどんな人間なのかを知らなくても、欲してしまうもの。


私は、久々に美容室のフロアに立つ。

そして、良明が、来ることを祈る。

丁度、私がバックルームでタオルの洗濯をしていたときアシスタントの1人が「いらっしゃいませ~」と言った。来客だ。

そう思ってバックルームからフロアに顔を覗かせてみた。


どうやら私の、祈りは神様に届いた模様。

そこには良明の姿があった。