その背中は、私を嘲笑っているかのように思えた。

『強国、大国について何が悪い?生きる為に強者の庇護を受けるのは当然の事だろう?


王宮の廊下で聞いた、紅の言葉が思い出される。

…あれは、本心だったのか?

本気で私を裏切るつもりだったのか?

…テラスで私との口づけの後に言ってくれた言葉は…私と国の為に戦ってくれると言った言葉は、偽りだったのか?

様々な感情が入り乱れて。

裏切った男の背中を見つめて。

まず最初に浮かんだ感情は。

…不思議な事に怒りではなく、悲しみであり、寂しさだった。

「…ふははははははははははっ!!」

大国軍の指揮官は笑う。

「いよいよ尻尾を出しおったか、裏切りの真紅!!」

紅の事をそう呼ぶ大国軍の指揮官は、私よりずっと前から、紅の二つ名を知っていたのだろう。

知っていて、紅に信頼を寄せる私を笑っていたのか。

報酬として私が唇を許したと知ったら、もっと笑うだろう。

そう思うと、たまらなく惨めに思えた。