『裏切りの真紅』

その二つ名を聞いた途端、乙女の表情は固くなった。

…俺は別段驚く風でもなく、黙って立っている。

乙女の反応は当然だ。

こんな不吉な名を聞いて、平気でいる方がおかしい。

ましてや、そんな二つ名の持ち主が自軍にいるなどと。

この国には死神が棲みついている、と言われたようなものだ。

「…『裏切りの真紅』…とは…一体…」

ようやく言葉を紡ぎ出す乙女。

「一体も何も、そのままの意味だ」

俺は淡々と語る。

…つまり、属している勢力が不利になったり、劣勢になったり、時勢が変わると、寝返るのだ。

信念も、大義も、誇りもなく。

勝つ方に、勝てる方につく。

強い方に尻尾を振る。

どこにも属さぬ、自由騎士ならではの行動。

そんな事を繰り返しているうちに、俺は『裏切りの真紅』という二つ名を得た。

…不名誉な事とは思わない。

事実だし、生き延びる為ならば汚名さえも被る。

命より大切なものなど、この世には存在しない。