その日の戦も、小国軍の圧倒的な勝利で幕を閉じた。

…最後まで食い下がる大国軍の騎士を大剣で斬り伏せながら、私は馬上から叫ぶ。

「これ以上の戦いは無意味だ。命惜しくば早々に退くがよかろう!!」

…その言葉に恐れをなしたように、大国軍の騎士達は背を向けて逃げ出す。

今回は被害も少なく、軽傷者程度で抑えられた。

この戦で攻めてきた大国軍五万の軍勢も、またも数百近くにまで削る事に成功し、前回の勝利と合わせて単純な計算ならば、大国軍の総数は二十五万から十三万程度にまで激減した事になる。

それもこれも。

「……」

私はチラリと、赤い外套を翻して双剣を振るう男の姿を見る。

紅のお陰だ。

彼は私の事を戦女神などと称していたが、私に言わせれば彼こそ小国に勝利をもたらす武神のように思えてならない。

…しかし。

「のぼせ上がりおって、戦乙女め」

撤退の最中、大国軍の騎士の一人がそんな言葉を口にした。

「紅の自由騎士を得た事で千人力のつもりなのだろうが、完全に見誤っているようだな」

「…どういう意味だ」

私はその騎士を睨む。

「フン…!」

騎士はその真意は口にせず。

「奴にはもう一つの異名がある。それを知らずして召し抱えるとは、人が好いにも程があると言っておるのだ!」

そんな捨て台詞と共に去っていった。