呼び止めたくせに、乙女は一言も言葉を発しない。

「何用だ?用がないのなら戻る。あの勢いだと、料理も酒も兵達に全て略奪されかねない」

「少し待たないかっ。こちらも心の準備というものがある」

小さく深呼吸をする乙女。

こうしていると口調が厳しいだけで、本当にただの年頃の娘だった。

「紅…その…報酬…は与えたのだから…」

ドレスの裾を弄びながら、乙女は聞き取りづらい小さな声で言う。

「…今後も…共に戦ってくれるのだろう…?」

何を当たり前の事を。

報酬を貰った以上、俺は戦う。

そんな事をわざわざ言う為に、呼び止めたのか。

「無論だ。確認するまでもあるまい」

「…そうか」

やっと顔を上げた乙女は、可愛らしい笑顔を浮かべて、ほっと一息ついた。

「ならば行っていい…それと、今日の事は絶対に誰にも言うな。それからもう一つ」

「まだあるのか」

少しうんざりしていた俺に。

「…今日のような無礼をまたしたら…今度は許さないからな…?」

そう言った乙女は、拗ねて甘える幼子のように見えた。