「だ、大体…」

赤い顔を見られまいと、私は顔を背ける。

「なぜ報酬が接吻なのだ。そのような足しにもならぬもの、何の意味がある?」

「騎士は名誉を欲する。当然の事だろう」

尚も余裕の笑みを浮かべて、紅は言った。

「お前はただの姫君ではない。凛々しく強く美しい、隣国にまでその名を轟かせる戦乙女だ。民衆にも慕われ、騎士達には羨望の眼差しを向けられている」

「…………」

「加えて敵国には畏怖の象徴、傷ついた兵士にとっては天界へといざなう戦女神・ヴァルキリーと同格の存在だ。誰にも穢されぬ聖域と言ってもいい」

あまりの誉め言葉に、顔がますます赤くなる。

「そのような、誰にも触れられぬ乙女の唇だ。金貨一億でも足りぬ価値だとは思わぬか?」

「知らん!そのような事、本人に訊くな!」

恥ずかしさのあまり、大声を上げて気を紛らわせようとする。

が。

「あまり大声を上げるな。衆人環視の中での接吻が望みか?」

「……っっっ……」

この男は本当に性格が悪い。

しぶとく戦場を生き延びてくると、このように性格も歪むものなのだろうか。