「乙女、お前の唇を頂こうか」

その言葉に、思わず私は凍りついた。

それを、何を勘違いしたのか。

「ほぅ、覚悟がいいな。なに、すぐ終わる」

私の肩に手を置き、顔を近づける紅。

「ふ、不埒な!」

私は彼の手を振り払い、頬をはたこうとする。

が、たやすく平手は紅に掴まれてしまった。

「剣腕はなかなかだが、格闘はイマイチのようだな。体術も覚えた方がいい。無手で戦う場面も…」

「う、うるさい!!」

掴まれた手を強引に引き抜いた為、後方に転倒しそうになった。

「き、貴様無礼にも程がある!報酬が、く、唇を奪うなどと…」

その言葉を口にしただけで、自分の耳まで赤くなるのがわかった。

「王族の唇を何と心得る!接吻は婚儀の証でもあるのだぞ!?」

「おや…お前は自分を姫扱いされるのを嫌う種類の人間かと思っていたが。それに」

紅は意地悪くニヤリと笑う。

「心配せずとも、俺は花嫁など一生貰う気はない。あくまでこれは報酬だ」

「…………っ」

あまりに余裕な紅に腹が立つ。

卑怯な。

なぜ一介の自由騎士ごときが、私より優位に立ったような顔をして見下ろしている!?