兵士を抱きしめたまま、乙女は嗚咽する。

俺は少し離れた所から、その様子を見ていた。

…あの女は優しすぎる。

戦で兵は死ぬものだ。

兵とは消耗品。

剣や矢と同じ事だ。

戦の度に消費し、その分だけ補充する。

…非情な言い方なのはわかっているが、れっきとした事実。

俺もその、消耗品のひとつなのだから。

死んだあの兵と俺の違いは、切れ味鋭い名剣か、そこらの兵士が使っているような普通の剣か、くらいの違いでしかない。

名剣とて、いずれは刃こぼれし、折れていく。

なのに乙女は、それを折るまいとする。

戦の為の剣を折れぬように扱い、剣を守る為に自らの身を呈する。

本末転倒だ。

だが、だからこそあの女は戦乙女などと呼ばれ、多くの騎士や民衆に慕われるのだろう。

…兵士を看取る姿。

それはまさに、傷つき倒れた兵士を天界へと導く戦女神・ヴァルキリーのようであった。