乙女が俺の肩をつかむ。

「紅!軍の指揮官は私だ。勝手な命令は慎んでもらいたい」

「ならば早速出陣を命じろ。ただし、俺の命令通りに動いてくれ。俺が指示した後は、お前の判断で命じてくれて構わん」

「……」

乙女は納得いかなげに押し黙ったが。

「承知した。何をするつもりかは知らぬが、まずは貴方の指示に従おう」

そう言って頷いた。









小国の砦の外に出ると、地平線に大国の軍勢が見えた。

七万という数は、それこそ視界におさまりきらないほどの軍勢だ。

横に広く陣形を取った大国軍は、あっという間に弓の射程距離にまで接近すると、そこで一旦進軍を止めた。

「…多いな。今回は少し手こずるやもしれぬ」

緊張した面持ちで呟く、白馬の上の乙女。

俺はその隣に、自らの足で立っていたが。

「ちょっ…紅!?」

彼女の見ている前で、ゆっくりと歩を進めていった。