どのくらい鍛錬を続けていただろうか。

気がつくとすっかり日は落ちていた。

暗くなった鍛錬場で剣を止め、私は呼吸を整える。

滴る汗が床に零れ落ちる。

優雅で気品あるのが一国の姫君、というのならば、今の私は泥臭い娘であろうか。

しかし。

「美しいな、お前の姿は」

突然、鍛錬場に声が響いた。

振り向くと、入り口近くに赤い外套。

腕組みした紅が、私の姿を見ていた。

「覗き見とは趣味が悪い」

気恥ずかしくなり、手ぬぐいで顔を隠すように汗を拭く。

「それにからかうのはやめてもらいたい。美しいとはどういう事か。このような汗まみれの姿で…」

「だから美しいといったのだ」

紅は私をじっと見据える。

「姫君だろうと兵士だろうと村の娘だろうと、懸命に努力を重ねた過程で流す汗は偽りない。汗をかかぬ者は、どんなに飾り立てようとその美しさは偽りだ。だからこそ美しいと言った…お前のように他者を守る為に己を鍛える者の汗は尚更だ」

「…………」

私は、この男は苦手かもしれない。

こちらが恥ずかしくなるようなキザな台詞を、サラリと言ってのける。

「…湯浴みをして汗を流してくる…失礼する」

私はそそくさと彼の側を通り過ぎ、鍛錬場を出て行った。