戦乙女だのヴァルキリーだの呼ばれていても、その実、私はやはりこの国の姫君だ。

公務もあれば、式典もある。

このような小さな国の姫君ですらこれほど目まぐるしく動き回らなければならないのだから、同盟国家や超大国ともなれば、私の倍以上は忙しいのだろう。

時々、紅のような自由騎士に憧れる事もある。

国民や、敵国や、臣下などのしがらみから逃れ、自由気ままに生きていけたらどんなに楽だろう。

…だがそれは、口に出した事はないし、出す気もない。

紅のような自由騎士とて、決して楽に生きているだけではない事も知っているからだ。

父が生きていた頃にも、我が国は自由騎士を抱えていた事があった。

そして我が国との契約が切れて、その自由騎士が去った後、風の噂で彼の最期を聞いた。

誰にも看取られる事なく、骨も拾われる事なく、最期は身にまとっていた鎧と剣、そして自らの骨だけを残して野垂れ死んでいったという。

仮にも誇り高き騎士が、である。

自由騎士とは、そういうもの。

最期を保障されるものでもなく、戦場で死ねるとも限らない。

戦いに生きる者にとって、戦いとは無縁の場所で死に行く事の、何と悲しい事なのか。

…紅も恐らくは、そのような覚悟と隣り合わせの上で生きているのだろう。

そう思うと、自由で気楽でいい、などとは口が裂けても言えなかった。

それに…私はこの国の姫君である事も、この国を守る戦乙女である事も誇りに思っている。

私はこの国を愛しているのだ。

それだけは、どんな思いを抱こうと迷う事のない、純然たる事実だった。