「やっぱり、レスポールのステージはいいねぇ~~!」
時刻は午後11時。雨の降りしきる夜の街を、男二人のむさ苦しい相合い傘で歩く森脇と前島。
「ああいう狭いハコも、客席が近くてこう独特の雰囲気があるよな」
「ああ、なんかこう……観客の熱い息づかいが伝わるっていうの?
そういうのがいいよな」
最近では、観客の収容人数の問題であまり小さなライブハウスで演奏する事など無かった為、今夜のステージは二人にとってもかなり新鮮な感触があった。
「トリケラトプスが全国各地のライブハウスを回るツアーとか、結構面白いかもしれないな………」
森脇が顎に手をあて、ふとそんな事を呟く。
トリケラトプスの実質的リーダーである森脇の考えは、そのままバンドの運営方針に反映される事が多い。
森脇のそんな呟きを耳にした前島は「ちょっと待てよ」と、森脇に提言した。
「おい勇司、その前にまず武道館だろうがよ!」
日本武道館………言わずと知れた、日本でロックを自負する者ならば、誰もが一度はそのステージに立ちたいと望むであろう、聖地とも言えるコンサート会場。
トリケラトプスは、この武道館でのコンサートをまだ行ってはいない。
観客収容人数およそ一万人という規模から、誰でもが武道館で演奏出来るという訳では無いが、今や日本音楽界でもトップの人気を誇る彼等であれば、その実現は充分に可能である。というより、未だにそれが実現していない事の方が不自然な位だ。
実は、トリケラトプスの武道館公演は去年の九月に実現している筈であった。
ところが公演当日、関東地方に襲来した大型の台風によって、都内の公共交通機関の殆どが麻痺した為、この日のトリケラトプスのコンサートはやむなく中止、チケットは払い戻しされる事が決定されたのだった。
それ以来、なかなかスケジュール的な折り合いが付かず、トリケラトプスの武道館公演は実現されないままでいた。
「勇司、俺は武道館で演りてぇんだよ!今年か来年までには、あの時の借りを返してやりてぇんだっ!」
目前までいって叶えられなかった武道館公演を熱望する前島に、森脇も力強く同意した。森脇にとっても、その気持ちはまったく同じであった。
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