「それじゃ、マスターご馳走さま」
「いや、こちらこそ素敵なライブをありがとう。また、いつでも遊びに来てよ」
「そうっすね。今度はフルメンバーで演奏させてもらいますよ」
「ハハハ、そりゃ楽しみにしてるよ」
そんな会話を交わし、マスターと別れを告げると、森脇が店のドアを開けた。
「ありゃ?雨降ってるよ………」
防音の効いた店内からは全く気付く事は無かったが、二人が店に入る時には降っていなかった雨が、この二~三時間のうちに本格的に降り出していた。
「うわ、マジかよ………傘なんて持ってねえぜ」
無数の縦筋が走る雨空を見上げ、前島が恨めしそうに呟く。
「仕方がねえ、コンビニまで走るか?晃」
「その前に、ぜって~ずぶ濡れになるけどな」
二人、渋顔を向き合わせ、覚悟を決めていざ走り出そうとした、その瞬間。背後からその様子を窺っていたマスターから、救いの手が差しのべられた。
「ああ、酷い雨だね………よかったら、これ差していきなよ」
いつの間にかマスターが、二人の為に二本の黒い傘を用意してくれていた。
「ああっ、マスター!マジで助かります!」
マスターの心遣いに、心底恐縮しまくる森脇と前島。そして、その厚意に甘えて遠慮がちに、傘を一本だけ手にした。
「もう、一本だけで全然大丈夫ですから!」
「そう!この際、《相合い傘》の相手が勇司ってのは、全然我慢しますんで!」
「おいっ!テメエ~晃、そりゃこっちのセリフだっつ~のっ!」
そんな風に、ドアの前で罵り合う二人の様子を見て、マスターが愉快そうに微笑んだ。
「なるほど、仲のいい君達には《相合い傘》がお似合いかもしれないね」
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