オリジナル曲を三曲、そして、ストーンズのコピーも含め計五曲の演奏を終えたZipのメンバーが、常連客の労いの拍手の中、渇いた喉を潤す為にステージを降り、カウンターまでやって来た。
「フヒィーー暑ぃ~~!マスター、バドワイザー五本!」
「はいよ、ステージご苦労さん」
マスターからバドワイザーのボトルを受け取ったZipのメンバーは、ステージのノリそのままに「お疲れ!」の掛け声と共に、揃ってそれをラッパ飲みで一気に三口、四口と喉に流し込む。
「プハァーーッ!最高!」
ライブステージをやり遂げたという達成感溢れるメンバーのその表情は、バドワイザーのCMに推薦したくなる程に清々しい。それを見ていたマスターの顔からも、自然と笑みが浮かぶ。
「Zipのステージ、ウチのお客さんの間でも好評だよ」
「あざぁーーーっす♪俺らも、マスターにそう言ってもらえると嬉しいです♪」
「それに、なかなかオリジナルの発表の場が無いんで、この店に呼んでもらって本当に助かってますよ♪」
「君達はプロ志望だろうし、ライブの機会は多いに越した事はないだろうからね。そうだ、もし良かったらそこにいるヨーコさんに名前を売っておくといいよ♪彼女はテレビNETのディレクターだからね♪」
マスターに陽子を紹介されたZipのボーカルの男は、持ち前の明るい笑顔で陽子に話しかける。
「マジっすかーー!ヨーコさん、初めまして!俺、Zipのボーカルやってます『涼(りょう)』って言います!ヨロシクお願いします!」
まるで陽子にプロポーズでもするかのようなおどけた調子で右手を差し出す涼に、陽子も笑顔で応えた。
「こちらこそ♪ステージ拝見しました。とっても良かったです」
「マジっすか!ホントにそう思ってくれます?」
「ええ、本当ですよ。ねっ、森脇さん?」
ふいに話を振られた森脇は、一瞬「俺は関係ねぇだろ」という顔をしたが、彼なりにZipに対する一応の評価を話した。
「まあ、悪くはないよ。音が荒いのはちょっと気になったがね……」
その森脇の言葉に、陽子は少し驚いた。音が荒い……とは、前回本田がZipの印象を述べた評価と同じものだ。だが、その事よりも今は別の事、初対面の相手にずけずけとダメ出しをする森脇の容赦ない態度に驚いていた。
案の定、それまで笑顔だった涼の顔から笑みが消えた。
「音が荒いだってぇ?おい、おっさん何だよソレ?」
陽子の心配は的中。和やかだった場の雰囲気は、森脇の一言で急変した。
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