ロックBAR・レスポールで人気の、週末のライブステージ。
陽子と森脇がやって来たこの日がそのライブの日であり、この夜のステージを任されていたのは、陽子が本田に連れられて初めてこの店に訪れた時と同じ《Zip》であった。
3月末までこの店のステージに立ったZipはレスポールの客からの評判も上々で、マスターはその後もこうして時々彼等をステージに立たせている。
「森脇さん、懐かしくないですか?」
ステージ上でのZipの演奏を黙って見つめている森脇に、陽子がそんな言葉を投げかける。
「うん?何が?」
「何がって、ステージですよ。森脇さん達も昔、あのステージで演奏していたんでしょ?」
「ああ、その事か………さぁ、三十年も昔の話だ……もう忘れちまったよ」
ステージを見つめたまま、表情を変える事なく、森脇は答えた。
そんな森脇の横顔を見つめ、陽子は彼が今どんな事を考えているのか探り出そうと思ったが、結局本当のところは彼女には分からなかった。
森脇は、本当にもうロックに対する情熱を無くしてしまったのだろうか?
ステージに立つ事への未練はすっかり失せてしまったのだろうか?
もしそれが真実だとしたら、今自分が必死になって取り組んでいる、トリケラトプスの出演交渉にいったい何の意味があるのだろう。
ロックへの情熱を無くした、抜け殻のような彼等のステージを観て、心を動かされる者など果たしているのだろうか………そんな、言いようのない不安が、知らないうちに陽子の胸中を密かに支配していた。
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