カウンターに座った森脇の目の前には、知らないうちにストレートでグラスに注がれたジャックダニエルと、新しいボトルがしっかりと置かれている。
「少しだけ」と言ったはずなのに、これでは簡単には帰してもらえないな……と、苦笑しながら森脇は観念したようにポケットのマルボロへと手を伸ばした。
「それじゃ、久しぶりの再会に」
マスターと森脇がグラスを合わせると、それを見ていた陽子が自分も仲間に加わろうと、ビールのグラスを持って近づいてきた。
「ちょっと二人とも、私を仲間外れにしないで下さいよ」
「お前はちっとも久しぶりじゃねぇだろ!俺に一日中まとわりつきやがって!」
「さすがは森脇君、女性にはモテるねぇ~♪」
「勘弁して下さい、マスター………こいつが女なのは、性別だけですよ」
「ちょっと!それ、どういう意味ですか森脇さん!」
膨れっ面の陽子を見て、森脇は愉快そうに笑った。ジッポを取り戻す為に渋々やって来たこのレスポールだったが、いざ来てみればその居心地のよさに、ついつい顔が綻んでしまう。
ホールに響き渡るノリのいいロックサウンド、そのリズムに合わせてゴキゲンに身体を動かす常連客、そんなこの店の独特の雰囲気に包まれていると、森脇にとってまるで天敵のようだった陽子の立ち振舞いさえも、自然と許せてしまえる気分になってしまうから不思議なものだ。
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