ヒット・パレード




「来てくれたんですね!森脇さん」


その陽子に対して、森脇は予想通りの仏頂面で、無言のまま掌を上に向けた右手を突き出すだけだ。


何も言わずとも、その意味は陽子にすぐ伝わる。彼女は、申し訳無さそうな表情でバッグから取り出した森脇のジッポを、彼の掌に乗せた。


「ごめんなさい………こうでもしないと、もう話を聞いてもらえないと思って………」


「ったく、ナメた真似しやがって………何度話したって同じ事だ。俺は、おたくのライブなんかには出ない!」


「それだけじゃ納得出来ません!どうして出たくないのか、私が納得出来る理由を教えて下さい!」


「そんな事ぁ~お前に関係無ぇだろうが!」


「関係無い事はないでしょう!」


互いに向かい合った両者の間に火花が飛び散る。そんな二人の様子を、マスターはまるで自分の子供の兄妹喧嘩でも見ているような呑気な顔で見物していたが、やがて仕方ないという風にその間に割り込んで来た。


「とりあえずーーー」


思いがけないマスターの大きな声に、二人が揃って驚いた顔を向けると、マスターはにっこりと微笑んで言った。


「立ち話もなんだから、二人とも座ったらどうだい。森脇君、久しぶりに店に来たのに、まさか飲まないで帰ったりはしないだろうね?」


「は…はぁ……じゃあ少しだけ………」


陽子からジッポを取り戻したら早々に退散しようと考えていた森脇だったが、マスターにそう言われてしまっては帰る訳にはいかない。


相手が、たとえヤクザだろうが総理大臣だろうが恐いもの知らずの森脇だったが、唯一このマスターにだけは頭が上がらないようだ。



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