午後10時、六本木
ロックBAR《レスポール》………
「おや?ヨーコさん、今日は本田君と一緒じゃないんだね」
相変わらずの穏やかな笑顔を携えて、マスターが挨拶代わりに掛けた言葉に、陽子は嬉しさを隠せないといった表情で答えた。
「ええマスター、本田さんは来てませんけれど、その代わり今夜はこの後スペシャルゲストに来てもらう予定になっているんですよ♪」
「スペシャルゲスト?はて、いったい誰の事だろう」
そのスペシャルゲストが誰なのか、マスターに耳打ちで教えようと陽子が椅子から腰を浮かせて彼の耳に顔を近付ける。
しかし、陽子がその名前を口にする前に、マスターはそれが誰なのかを既に理解したように、店の入口の方へと顔をを向け「成る程ね」と目を細めた。
「いらっしゃい、森脇君」
「ご無沙汰してます、マスター」
背後から聴こえたその声に陽子が少しびっくりした顔で後ろを振り返ると、そこに森脇 勇司が立っていた。
その印象の違いに、一瞬目を奪われる。
雑誌『レオン』から抜け出したような黒を基調としたワイルド且つセクシーなファッションで身を纏った森脇は、その細身で長身な持ち前の体格も手伝って、かつてのスーパーロックスターの風格を存分に備えている様に見えた。
勿論、問題のあのパンチパーマも、今はニット帽でしっかりと隠されていた。
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