ヒット・パレード




ファミレスの建物が軽トラのフロントガラス越しに見えてくると、森脇はまずその駐車場へと視線を移した。


幸いな事に、そこに陽子の赤いフィツトは無かった。


あれから、何だかんだで三十分近くは経っている。彼女も森脇が帰った後に一人で居る用事も無かったのであろう。まずは、陽子が居ない事に胸を撫で下ろした後、森脇は駐車場に車を停めて再び店の中へと入って行った。


ドアを開けて店内に入ると、最初に店に来た時と同じ案内係が森脇に「お一人様ですか?」と、お決まりの言葉を掛ける。


その言葉を遮るようにして、森脇が自分と陽子が座っていたテーブルを指差し、三十分程前にそのテーブルで忘れ物をした事を説明すると、案内係はにっこりと微笑んで「それなら、こちらで預かっております」と答えレジの裏手に回った。


「よかった」と、額の汗を袖口で拭う森脇。あのジッポだけは絶対に無くす訳にはいかない。あれを忘れていくなんて、やっぱりあの時の自分はどうかしていたんじゃないかと考えながら、森脇は案内係を目で追う。



「こちらで宜しいでしょうか?」


「は?」


案内係の手に載ったモノを見て、森脇は目を大きく見開いた。


「おい!ライターはどうした!それと一緒にジッポのライターがあっただろうが!」


案内係の手にあったのは、潰れたマルボロの箱と名刺のみ。肝心なジッポのライターが無い。


「いえ、テーブルにあったのは、この二つだけでございました」


案内係は、困ったような顔でマルボロと陽子の名刺を森脇に手渡す。


誰かがジッポだけを持っていきやがった………そう思った森脇は、青ざめた表情でそれを受け取った。


ふざけやがって!こんな煙草なんてどうでもいい、ましてやあの女の名刺なんて!その悔しさから、その場で名刺を破り捨てようとしたその時、陽子の名刺の裏に書かれていた内容に、森脇は頭が沸騰する思いがした。






《ライターは私が預かりました。返して欲しかったら、六本木のロックBARレスポールへ来て下さい。待ってます!初音 陽子》



「チクショウ!あの女!」


店内に響き渡るような大声で、森脇は吠えた。



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