なんとなく落ち着かなかった。
あの初音 陽子とかいう女のせいなのか、それともさっきのラジオのせいなのか、それは森脇本人にもよく分からないが、なんとなく胸がもやもやする様でとにかく落ち着かない。
赤信号で車を停め、とりあえず煙草でも一服つけて気分を静めようと、森脇が胸のポケットからマルボロを取り出そうとした時だった。
「あれ?」
森脇は、その時はじめてポケットの中に煙草もジッポのライターも無い事に気が付いた。
「ヤベェ!あのファミレスだ!」
陽子との話の途中、煙草とライター、そして彼女の名刺をテーブルの上に置いた事を思い出す。そして帰る時にそれをポケットに入れた記憶は無かった。
「クソッ!」
悔しそうに舌打ちをする森脇。この際、煙草と名刺はどうでもいいが、あのジッポのライターはそうはいかない。そのジッポは森脇にとって、かなり思い入れのある品物だったからだ。
信号が青に変わると、森脇はすぐさまウインカーを右に出し、狭い路地を通り抜けてUターンをした。
ファミレスへと戻る道すがら、二つの心配事が森脇の脳裏をかすめる。ひとつは、ジッポが後から来た客に持ち逃げされてはいないだろうかという事。そしてもうひとつは、陽子がまだあの店にとどまっていないだろうかという事だ。
「たのむぜ、おい」
そのどちらもがヒットしないよう祈りながら、森脇は軽トラのアクセルを床いっぱいまで踏み込んだ。
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