「まったくあの女、何考えてやがる!」
軽トラに乗り込んでファミレスを後にしてから15分経っている。それでもまだ苛つきが収まらない様子で、森脇はアクセルをいつもより余計に踏み込んで直線道路を走っていた。
さっきまで怒鳴っていたかと思えば、次の瞬間にはニヤニヤと笑いやがって……人の言う事は全く聞かねぇし、挙げ句の果てにはもう一度ステージに上がれだと?
「今さら出来るかってんだ………」
自然と独り言のように呟いていた。
そんな時ふと、車の中で聴いていたAMのカーラジオから、ある音楽が流れてきた。
誰のリクエストだか知らないが、このタイミングでかよ………
その聞き覚えのあるメロディに、森脇は自嘲気味に苦笑いする。
その曲は、トリケラトプスのファーストアルバムのB面最後に収められている《ラスト・ステージ》というバラード曲であった。
1コーラスの後フェードアウトするギターソロに被せて、番組のパーソナリティーが感慨深そうにコメントを乗せる。
『いや~懐かしい。これ、僕が高校の頃の曲なんですけどね、本っ当に夢中になりましたね~~このトリケラトプスというバンドには。たった三年位で解散しちゃったんですけど、いつか再結成しないかなぁってずっと思っていました………それじゃあ次のリクエスト………』
森脇の脳裏に、陽子が言った「トリケラトプスのステージを心待ちにしているファンが、この日本にはまだ数多く存在する」という言葉が浮かんだ。
その言葉を打ち消すように、森脇はもう一度同じ事をまるで自分に言い聞かせるように呟いた。
「今さら、出来るかってんだ………」
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