「どうして駄目なんですか!理由を教えて下さい!」
食い下がる陽子に、森脇はただ、こう答えるだけだった。
「トリケラトプスはもう解散したんだ。俺はもう、ロックを演るつもりは無い!」
単純明快な答えだった。しかし、そう言われて「はい、そうですか」と引き下がる訳にはいかない。テレビNET50周年記念番組24時間ライブが成功するか否かは、全てこの陽子の交渉に懸かっているのだ。
「そんな事言わないで、お願いします森脇さん!」
「断る!」
「断らないで!」
「いやだ!」
「そこをなんとか!」
「アンタもしつこいな!」
「諦めませんよ!私は!」
「諦めろよ!」
「イヤです!」
「そう言わずにさ」
「絶対、イヤです!」
「そこをなんとか…………………
って、なんで俺の方が頼まなきゃならねぇんだよ!おいっ!」
「あれ?そう言えば、そうですね………」
見れば、陽子は『えへへ』と頭を指先で掻いて無邪気な顔を見せ笑っている。
「クソッ!」
森脇は、自分のパンチパーマを掻きむしり苛つきを露わにして立ち上がった。この女と喋っていると、頭がおかしくなりそうだ。
「とにかく、その24時間ライブとやらに出るつもりは無ぇからなっ!もう二度と俺の前に顔を見せるな!」
テーブルの上に、くしゃくしゃの千円札を一枚乱暴に叩きつけると、森脇は最後にそれだけ言い残し、店の出口の方へと歩き出した。
「ちょっ、ちょっと待って下さい森脇さん!話はまだ………」
「終わりだ!」
振り向きもせずそう吐き捨てた森脇は、歩む速度を速め、そのまま店を出て行った。
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