そわそわと落ち着かない様子で外の駐車場を見ていた陽子の視界に、森脇の運転する車の姿を確認したのは、午後8時をわずかに過ぎた頃だった。
白い軽トラックである。
今、軽トラから降りて来た、くたびれた作業服を着たパンチパーマの男がかつては日本の音楽界を牽引し国民的な人気を誇った伝説のロックバンドのメンバーだったとは、ここにいる誰も夢にも思わないだろうな……と、陽子は一人ほくそ笑んだ。
やがて、仏頂面で店内に入って来た森脇は、案内係の女性と一言二言やり取りをすると、陽子の座っている席へとやって来た。
「お待ちしてました。森脇さん」
立ち上がって笑顔で挨拶をする陽子に「別に、好きで来た訳じゃねぇよ」と、素っ気なく返す。
そして、メニューを一瞥しブラックコーヒーを注文した森脇に、陽子は飲み放題のドリンクバーを勧めてみたが「そんなに長居をするつもりは無い」と、これまた素っ気なく返された。
「それで、話ってのは一体何なんだよ?」
店に入って来た時と同じ仏頂面のまま、単刀直入に森脇が尋ねてきた。
「その前に自己紹介がまだでしたね。私、初音 陽子と申します」
そう告げて陽子が差し出した彼女の名刺を受け取ると、それを見た森脇の仏頂面が更に不機嫌さを増したように見えた。
「テレビNETのディレクターだと?お前、メディアの人間だったのか」
そう言って陽子に向けられた森脇の表情は、明らかに彼女に対しての警戒心が多分に含まれたものだった。
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