陽子は、森脇と約束した午後8時よりも15分早くに指定されたファミレスへと到着し、店の中で彼が来るのを待っていた。


ドリンクバーのホットコーヒーを啜りながら、スマホの画面に映し出されたトリケラトプスのメンバーの画像を眺め、ひとりニヤニヤしている。


三十年の月日が経っているせいもあり、その画像の森脇と実際に目にした彼とでは、その印象に大きな開きがあった。すらりとしたその体型は維持しているものの、顔はやっぱり老けている。


なによりも決定的に違うのは、当時、肩まであるウェーブのかかった長髪であった彼の髪が、現在はバリバリのパンチパーマに変わっていた事だった。


作業服を着ていた事も手伝って、今の森脇を見て、彼が日本でもトップクラスのロックバンドのボーカリストだと気付く者は恐らく居ないのではないだろうか。


実際、陽子は彼女がトリケラトプスの捜索を任されたその日に、既に工事現場で森脇を目撃していたのだが、その時には彼がトリケラトプスの森脇 勇司だと全く認識していなかったのだから。


そして、実を言うと陽子は森脇が働いていた工事現場を請け負っていた建設会社に、既にもう電話をかけていた。しかし、森脇が非正規の従業員であった為、電話では森脇の存在を確認する事が出来なかったのだ。


そう考えると、今日陽子がうっかり道を間違えて工事渋滞にはまってしまった事、二度も森脇に車を停められた事、そして陽子が森脇に怒鳴り込みに行った事、この奇跡的な偶然が重ならなければ陽子が森脇に出逢う事は無かったと言える。


そんな運命的な出逢いに、普段は神様など信じない陽子も、今は自分にこんな奇跡を運んでくれた神様に、感謝の祈りを捧げずにはいられない気持ちでいっぱいだった。



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