────残念でした。



旗振りオヤジがそう言ったかどうかは知らないが、その時の陽子には彼がそう言って旗を突き出したように見えたに違いない。


どうして、私ばっかり!


自分の不遇を呪うと同時に、その旗振りオヤジに対する怒りが急激に沸き上がって来た。


「もうアッタマきた!文句言ってやる!」


交通整理はそれが仕事であり、どこかで車を停めなければならない。その先頭がたまたま陽子になっただけで、そして偶然にもそれが二度続いた………


という論理的な解釈は、頭の中が沸騰している今の陽子にはもはや通用しなかった。


ただ、ただ、旗振りオヤジが憎ったらしい。一言文句を言ってやらなければ、陽子の中に溜まりに溜まった怒りのマグマはとても沈静化しそうに無かった。


「ちょっと、アンタ!なんで私のとこで停めるのよっ!」


運転席の窓から顔を出して、金切り声を旗振りオヤジにぶつける。


「あ?」


いきなり怒鳴りつけられた旗振りオヤジは、怪訝な表情で陽子の方へと視線を向けた。


「なんでって、仕事だから」


なんとも冷静な態度で、男は返した。しかし、そんな男の冷静さはかえって陽子を逆上させるというものだ。


「私じゃなくてもいいでしょ!」


「アンタだっていいだろ?」


冷静、且つ即答。言い争いで一番腹の立つパターンである。


陽子は堪らず車を飛び出した。そして、まるでプロ野球で危険球を投げられたバッターのように、鬼の形相で旗振りオヤジのもとへと歩いていった。



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