ステージへ向かって歩く途中、武藤が森脇に話しかける。
「この大一番でボーカルとリードギターを兼任とは、まったく大した度胸だよお前は………
それで、勝算はあるのかい?」
「俺にもわかんねぇよ。五分五分ってところか」
天性の音楽センスを持つ森脇。ボーカルは勿論の事、ギタリストとしての実力もかなりのものを持っている。しかし、それでもあの前島 晃には到底及ばない。
出番待ちのトイレで武藤に溢した
「もう、あんなステージは二度と出来ないんだな……」という台詞は、森脇の切実なる本心であった。
28年も待ちわびた念願のライブのはずなのに、何故だか気が重い………そんな複雑な気分を抱え、森脇は一万人の観客の待つ武道館のステージへと向かう。
(ああ、今頃お前は《あの世》の何処かで俺達の事を見守っていてくれてんのか?
晃……頼むからお前のギター、また聴かせてくれよ………)
何故だか、無性に前島のあの無邪気な笑顔が頭に浮かんで仕方が無かった。
やがて、トリケラトプスはステージの袖へとたどり着いた。
眩いばかりのスポットライト、そして彼等の名を呼ぶおよそ一万の歓声。現実離れした別世界が、もうほんの五メートル先で待っている。
『トリケラトプス、スタンバイOK!』
『CM明け、15秒後に本番スタートです!』
『カウント入ります!15、14、13、12、………』
慌ただしいスタッフの声が交錯する。
そして、誰もが思いもよらなかった奇跡が起こった。
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