ヒット・パレード




「心配は無用だ。今更辞退なんてしないさ」


その森脇の言葉に、とりあえずはホッと胸を撫で下ろす本田。


「それを聞いて安心しました。
しかし、それならギターはどうするつもりなんです、森脇さん?」


森脇はさっき「黒田の代役は要らない」と言った。いったいこの危機的状況をどうやって乗り切るつもりなのだろう?


本田は期待と不安の入り交じった表情で森脇を見つめ、彼の次の言葉を待った。






「俺がボーカルとリードギターを兼任する。」


「えっ!」


「三人で演るんですか?」


それは、本田にも陽子にも予想外の答えだった。きっと、武藤と森田でも予想しなかった回答だろう。


「さっきからずっと考えていたんだ………晃がいないから、代わりに黒田を、そしてまた黒田の代わりに別のギタリストを………結局、誰が弾いてもあの頃のトリケラトプスには戻れない。それならいっそ俺が弾いてもいいかなって思ってね」


それは森脇にとって、決してベストな選択と言えるものでは無かった。というより、既に選択肢など、今の森脇には無かったというべきなのかもしれない。


森脇には分かっていた………たとえ本田が今から布袋屋と松本の所へ出向き出演を要請しても、恐らく彼等は出演などしないであろう。


森脇も同じミュージシャンだからこそ分かる。一流のギタリストであればある程、事前の準備も無しに天才ギタリスト前島 晃の代役を引き受けるような安請け合いはしない。


しかも、トリケラトプスというバンドは各々のメンバーの個性が拮抗し、絶妙なバランスによって完成されているバンドである。自分がギターを弾けばそのバランスが崩れ、トリケラトプスがトリケラトプスで無くなってしまう事を布袋屋や松本程のギタリストが知らない筈が無い。


だから、森脇は自分がリードギターを弾くと言い出したのだ。もとはと言えば、黒田を選んだのもその黒田をぶっ飛ばしたのも自分だ。もし、ライブが不発に終わってしまった時には、その責任は全て自分が被る………森脇はその覚悟をもって、自らリードギターを買って出たのだった。


本田のインカムにスタッフから連絡が入る。


『楽屋待機のトリケラトプス、スタンバイお願いします!』


本田がそれを伝えると、森脇、武藤、そして森田の三人が同時に立ち上がった。


ステージに向かって歩き出す森脇の背中に向かって、陽子が声援を送る。


「きっと、きっと森脇さんなら出来ます!私、信じてますから!」


そんな陽子に、森脇は振り返らずに黙って右手を挙げ応えた。



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