自慢の神輿に乗って、大俵 平八郎が悠々とステージに登場して来た。
神輿の大きさは、アメ車のSUV位はあろうか。そして、その製作費も一千万と、これもまた高級外車が買える程のシロモノである。
神輿の周りには淡い暖色の提灯が並び、前方には豪華絢爛な金色の龍のオブジェがおごられる。その龍の背に跨がるようにしながら、大俵は満面の笑顔を携えステージの中央へゆっくりと移動して行く。
やがてイントロが終わると、大俵が歳の割りには張りのある自慢の声で歌い始めた。その演歌歌手特有のこぶしの効いた歌い回しと豪華絢爛、純和風な神輿の迫力は満員の武道館に歓喜の渦を巻き起こす。
なんて事が、ある訳が無かった。
「お客さん、なんだかノリ悪いですね……」
「そりゃそうだろ……全く、場違いも甚だしい」
ステージ脇で大俵のステージを眺めながら、本田と陽子が苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。
「しかし、よりによってこの時間帯はキツイな。絶対、数字に影響する」
観客の反応もそうだが、番組の責任者である本田としてはこのゴールデンタイムの視聴率の低下は、かなり大きな痛手である。
「ですよね………折角ここまで順調だったのに、ツイてないなあ……」
そんな本田や陽子の気持ちとは裏腹に、大俵は貼り付いたような笑顔で意気揚々と《日本全国豊作音頭》を歌い上げる。
ヨヨイのヨイ♪ ヨヨイのヨイ♪
ワンコーラスを歌い上げ、大観衆を前に上機嫌で手拍子を打ち始める大俵。
一万人の観客、そして全国ネットゴールデンタイムの生放送。大俵がこれ程までに多くの人間に注目されるのは、彼の全盛期の頃以来に違いない。
しかし、その大俵の至福の時間もそこまでだった。
数々の身勝手な振る舞いで周囲を混乱させた天罰だろうか?
彼の身に大きな不幸が着実に近付いている事を、その時の大俵はまだ知らなかった。
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