ライブは本田の予想通り……いや、予想を遥かに上回る盛り上がりを見せていた。
立て続けに投入される人気アーティスト、そしてビッグネームシンガーのステージは観客の心を完全に捉え、武道館は興奮と熱狂に包まれる。
それにもかかわらず、プロデューサーである本田の表情が今ひとつ優れないのは、この後のステージに登場予定のあの男のせいなのであろう。
「クソッ!せっかく会場が盛り上がって、これからって時に!」
その男の名は、大俵 平八郎。
わざわざ番組のプログラムを変更させてまで、早朝ゴルフを敢行。
そのゴルフの成績が良かったのか、ご満悦な表情で午後6時に意気揚々と武道館へとご到着する。
「いやあ~お待たせしましたな、本田さん」
(待ってね~し!)
上機嫌の大俵に対し、正反対の仏頂面で内心毒づく本田。
日曜日のこの時間帯、多くの一般家庭では家族が揃って食卓を囲む時間である。
その和やかな一家団らんの場に欠かせないのがテレビ。
一日の中で一番テレビ視聴者の需要が高まるこれからの時間帯《ゴールデンタイム》に、何が悲しくてこんな落ち目の演歌歌手を出さなきゃならないのか?
「あと二十分程で大俵さんの出番となりますので、準備の方宜しくお願いします」
「ああ、準備は万全だよ。私が乗る例の神輿もちゃんと届いている筈だよ」
「ええ、あの神輿はゆうべのうちから会場に運び込んで、ステージの脇に用意してあります」
「そうかね、アレは特注品でね一千万もしたんだよ。いろいろと仕掛けがあってね、音楽に合わせてワッショイ、ワッショイって………」
大俵が神輿を担いで上下に揺するフリをしながら、自慢顔でその機能を説明するが、本田にはそんな事全く興味など無い。
「それなら今朝、スタッフから聞いたので存じてます。それより、そろそろ別室で着替えの方お願い出来ますか?」
事務的な対応で素っ気なく大俵を控え室へと追いやる。出来れば、あまり大俵とは喋りたくは無い。
「おお、そうですな。では本田さん、私の一世一代のステージ楽しみにしていて下さいよ」
ふてぶてしい笑顔でそう言うと、大俵は控え室の方へと消えていった。
全く、その言動ひとつひとつが本田にとっては癪に障る。大俵の背中に向かい、本田は心の中でこう叫ぶのだった。
このバカヤロウ!ハゲてしまえ!
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