その後の音合わせでも黒田は度々身勝手な暴走を繰返したが、森脇はその度に演奏を止め、何度でも最初からやり直しをさせた。
「おい、またかよ!いい加減にしろっ!」
「そりゃ、こっちのセリフだ。いい加減、ちゃんと合わせろ!ほら、もう一回だ!」
こんなやり取りを、もう十数回繰返している。やがて、黒田の方が痺れを切らして暴走を控えるようになり、何とかリハーサルの方は無難に終了する事が出来た。
「最初からそう演りゃいいんだよ!
いいか黒田、お前の見せ場はちゃんと作ってやる。だが、それ以外の所で勝手なマネしやがったらステージから蹴り落とすぞっ!よく覚えとけ!」
「ヘン!やれるモンならやってみろよ!」
森脇の忠告など、聞く耳も持たぬと言わんばかりの黒田。リハーサルは終了したものの、信頼関係は皆無に等しい。
ギターの腕さえあれば、多少の素行の悪さは大目に見よう………そんな考えから、本田の忠告を敢えて無視して黒田を選んだ森脇だったが、こんな事になるのだったらもっと慎重に選ぶべきだった。
(今頃になって、なんなんだよ!)
自分の判断の甘さを悔やみながら分厚い防音のドアを開け、森脇は重い足取りでスタジオの外へと出て行った。
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