『いいのかね、そんな事を言って。
この番組のスポンサーにもなっている《斉藤製薬》の社長さんと私は、二十年来の親友でね………君が出来ないと言うんなら、彼に相談してもいいんだよ?
そうなったら、テレビNETさんもさぞかし困るんじゃないのかなぁ』


以前、大俵がこの番組に無理矢理自分の出演をねじ込んできた時と同じやり口である。


実際、番組に要望を突きつけるにはスポンサーを巻き込む事が最も有効であると、大俵は自身の長い芸能生活から経験的に熟知している。


本田としても、心情的にはそんなものに屈したくは無いのだが、それを無視すれば本田自身の他にも局の様々な人間に迷惑がかかる為、簡単には断れなかった。


そして、そんな本田の戸惑いを知ってか知らずか、大俵は自分の言いたい事だけを伝え、さっさと電話を切ってしまったのだ。


『じゃあ、そういう事で。夕方にはそちらに伺いますから、あとは宜しく頼みますよ』


「あっ、ちょっと待って下さい!大俵さん!もしもし………」


ツーー、ツーーという虚しい断続音の聴こえる受話器を握り締め、怒りに震える本田。その本田の顔を心配そうに覗き込み、陽子が尋ねる。


「どうでした?」


「大俵は、この時間には来ない。大先生は、これからゴルフで忙しいんだと!」


「ゴルフですって!」


本田の少々皮肉めいた答えを聞いて、陽子が顔を真っ赤にしてキレた。


「あのオヤジふざけんなっ!
もう~~ハゲてしまえっ!」


「なんだそりゃ?普通「死んでしまえ!」じゃないのか?」


陽子の妙な言い回しに、思わずクスリと頬を緩ませ我に返る本田。そうだ、いつまでも怒っていても始まらない……今は、一分一秒でも時間が惜しい。


大俵の言いなりになるのは少々癪に障るが、スポンサーとのトラブルは出来る限り避けなければならない。結局、本田は午後6時以降の出演予定アーティストから一組を大俵と入れ替える方法を探った。


(とりあえず、融通が効くのはアイツらだな………)


本田は、すぐさま頭に思い付いたアーティストへと電話を掛けた。


時刻は早朝の午前5時、相手方にはさぞかし迷惑に違いない。



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