『とにかく、もう予約もしてあって今から出掛けなきゃならんのでね。そういう事でよろしく頼むよ、本田さん』
(こんの…クソオヤジが………)
心の中で舌打ちをしながら、本田は思った。もう、こうなってしまったら大俵をこの時間に呼び出すのは不可能に違いない。それならば、こんなオヤジには早々に見切りをつけて番組の対応に走る方が先決である。
「わかりましたよ大俵さん。番組的には、大俵さんのステージは、本人の体調不良により中止という事で対応しておきますから、ゴルフでも何でも行って下さい!」
大俵の出番は、時間にして十五分程度である。その後のアーティストに話をして、何曲か余計に演奏してもらえば時間的には充分埋められる時間だ。
ところが………
『中止?……いやいや、中止は困るよ本田さん。夕方には出られるんだから、中止じゃなくて時間変更にして貰わないと!』
と、あくまでもステージに立つ事には拘る大俵。ゴルフには行くが、ステージの方も譲らないというこの言い分は、さすがに本田にも飲めない要求である。
「大俵さん、そりゃはっきり言って無理です。夕方は夕方で多くのアーティストの予定を組んであるんです!アナタのステージが入り込める余裕なんてありませんよ!」
『本田さん、あんたプロデューサーなんだから、そんなもんどうにでもなるだろうに。それだったら、夕方の歌い手をこれから歌わせたらいいだろう!』
(勝手な事ばかり言いやがって!
それを言うなら、アンタのゴルフこそどうにでもなるんじゃねぇのか?)
心の中ではそう呟きながら、とにかく大俵を説得する。本当は、こうして話している時間さえも惜しい位なのに……
「とにかく無理です。今から来れないのなら、今日のステージは諦めて下さい」
しかし、それでは退かないのが大俵のしつこい所である。自分の言い分が通らないと知ると、いよいよ切り札を出してきた。
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