「まよよは、本当は男なんです!」
「…………何言ってんだ、コイツは………?」
完全に想像の範囲を超えた発言をされた時、人間の思考回路は一瞬その機能を止める。
トレードマークの眼鏡を鼻の下までずり落としながら、秋山は再度今しがたの《まよよ》の発言の意味を脳内で咀嚼した。
「まっ!マジかっ!」
青天の霹靂、寝耳に水。勿論、そんな事実は秋山にとって初耳であった。
「いや、待て。これは《まよよ》のウケを狙った冗談に違い無い。
そうだ、常識的に考えてもそんな事がある筈が無い」
改めて冷静に考え直し、そんな結論に至る秋山。会場のファン達も、あまりに現実離れした《まよよ》の発言をまともに信じようとする者は少なかった。
「まよよ~ウケる~~~♪」
「ドッキリ大成功~~~♪」
そんな声援が《まよよ》に投げかけられ、会場は再び和やかな雰囲気を取り戻す。
そして、その様子を客席側から、腕組みをし、理解に苦しむという面持ちで本田が見ていた。
「何なんだよ、この茶番は……」
《まよよ》がイタズラ心で仕掛けたドッキリに会場が盛り上がって見事大成功。めでたし、めでたし。
常識的にはそう考える。
しかし、若さ故の暴走は時に、常識の枠を遥かに超える危険性をやっぱり孕んでいたのだった。
「嘘じゃありませーーーん!
私、今までファンの皆さんを騙していました!本当にごめんなさい!
《まよよ》の言う事を信じてもらえるよう、今からその《証拠》を見せます!」
嘘では無いのだ。ドッキリでは無いのだ。自分は本当に男なのだと、涙ながらに訴える《まよよ》。
「えええええええ~~~~~っ!」
その《まよよ》の発言に驚愕するファン達。そして秋山。
しかし、誰よりもその発言に過敏に反応したのは、本田だった。
「おいっ!何言ってんだあの女!
《証拠》を見せるって、まさか生放送でアレを見せるつもりかっ!」
《まよよ》が男である証拠。そう言われて連想されるのは、アレしか無い。しかし、それを公衆の面前で晒す事は日本の法律で厳しく制限されている。ましてや生放送のテレビで放映するなど言語道断である。下手をすれば、テレビNETのトップの首が飛ぶ大不祥事に発展する事も十分あり得るだろう。
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