「皆さん、聞いて下さい。この場をお借りして私、渡辺 真夜から皆さんに、お伝えしなければならない事があります!」


その、どことなく緊張を帯びた《まよよ》の雰囲気に観客達はいったい何事かとざわめき始める。


(《まよよ》はいったい何を言うつもりだ?……)


それを見ていた秋山の脳裏に、あるキーワードが浮かぶ。



《卒業宣言》


普通なら、あり得ない。プロデューサーの秋山に何の断りも無く卒業など、芸能界の常識としてそんな事はある筈が無かった。


しかしこの状況、そして《まよよ》のあの何か思い詰めたような表情からは、それ以外の伝えるべき事柄など秋山には思い付かなかった。


彼女達は若い。その自由奔放な若さ故に世間から受け入れられ、その国民的な人気を不動のものにしている訳だが、逆を言えばその若さは、世間の常識の枠を超え、暴走する危険を孕んでいる。


普段はクールで冷静な秋山も、この不測の事態には心の動揺を隠す事が出来なかった。


「おい!早まった事口走るんじゃないぞ!」


思わず立ち上がり、叫ぶ秋山。しかし、その声は《まよよ》には届いてはいなかった。


会場の観客席を見渡し、意を決したように話し始める《まよよ》。



「今夜、まよよは皆さんに伝えたい事があります。
私、渡辺 真夜は……まよよは………」


「よせえええーーーーっ!
やめろおおおおーーーーーっ!」



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