ヒット・パレード




5月14日………


レスポールでの集まりから一夜明けた翌日、森脇は東京郊外の道路沿いにある、とある中古外車販売店の店先に立っていた。


メルセデス、BMW、アウディ、シボレー、ミニ……綺麗に磨き込まれた様々な国籍の外車が並ぶその展示場。


しかし、その優雅な雰囲気をぶち壊すかのように、展示場の片隅では背中に店の名前が入った青いツナギを着た店の者らしい男と、私服の客らしい男との激しい言い争いが繰り広げられていた。


「ナビを付けろだと!テメエ、ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」


二人が揉めているのは、ブリティッシュグリーンに輝くボディーのイギリスの高級車《ディムラー・ダブルシックス》の前。


「ふざけてるって、どういう意味だよ?今の車はみんな付けてるだろ!」


「バカヤロウ!あんなプラスチックの内装の車とこの車を一緒にするんじゃねえ!
見ろよ、この美しいウッドパネルを。全部天然のウォールナットだ!しかも、全て熟練の職人が一枚一枚手作りで作っているんだぜ?
ナビなんて付けたら、このウッドが台無しだろうが!」


揉め事の原因は、このディムラーを見に訪れた客が購入の条件に、この車にナビを付けて欲しいと言い出した事からはじまった。店の男は、七十年代に製造されたこのディムラーに最新のナビなどを付けようものなら、折角の趣あるインテリアの雰囲気がぶち壊しになると、断固拒否しているのである。


「客が付けたいって言ってるんだから、付ければいいんだよ!じゃなかったら、買わないぞ!」


「ああ、買わなくて結構!誰がテメエなんかに売るかよ!帰れ!帰れ!」


散々客と揉めた挙げ句、車を売らないと言い出す店の男。そのあまりの頑固さに、客は商談を打ち切り、捨て台詞を吐いて自分の車の方へと戻って行く。


「クソッ、後で後悔するなよ!」


「ああ、せいせいすらぁ!テメエには、そのクラウンがお似合いだよ!」


走り去る客の車に向かって、罵声を浴びせる店の男。
森脇は、その男の背中越しに近付いて声をかけた。


「あ~あ~、怒って帰っちまったぜ。一台売り損なったな」


「ヘン、儲けの問題じゃねえよ。大事なのは『ロックかロックじゃねえか』って事だろ」


振り向かずにそう答えた男の台詞に、森脇は思わず顔を綻ばせる。



「その口癖。相変わらずだな、武藤」


「ん?」


ふいに名前を呼ばれ、少し驚いたように振り返る男。そして、森脇の顔を見るとその顔は更に驚きを増し、それはすぐさま懐かしさのこもった笑顔に変わった。


「森脇ぃ~!久しぶりじゃねぇかよ、コノヤロウ!」


「武藤、お前を口説きに来たよ。またベース演ってくれ」


トリケラトプスのベーシスト、武藤 謙三………森脇との28年振りの再会であった。



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