「森脇さん、前島さんと言えばギターはどうするんですか?」
それを口にしたのは、陽子だった。話の流れからいって、この話題が出るのは至極当然の事と言える。
トリケラトプスのステージ最大の不安要素とも言える、リードギター前島の代役。これを誰にするのか?
ロックバンドには不可欠であるリードギターの存在。ライブの出演を承諾した森脇は、既に候補を決めているのではないか?と、本田も陽子も想像していた。
「ああ、ギターか………」
天才ギタリスト前島 晃が抜けた穴を、果たして誰が埋めるのか?
本田、陽子、そしてマスターまでもが、その名前を森脇が口にするのを期待に満ちた思いで待っていた。
ところが………
「誰かいねぇかな。本田さん、アンタ腕のいいギタリスト知らないか?」
「・・・・え?」
なんと、森脇は前島の代役について全くのノープランであった。
「マジですか?」
森脇の完全なる《丸投げ》発言に、呆気に取られた顔で森脇を見つめる本田と陽子の二人。
「仕方無ぇだろ。ここ28年、音楽からは遠ざかってたんだ。最近のギタリストなんて、誰も知らねえよ」
口を尖らせて釈明をする森脇に、本田は構想から始まり長い間コツコツと積み上げてきた《24時間ライブ》という名の城の天守閣が、ガラガラと音を立てて崩れていくような気がした。
「そうは言っても森脇さん、誰か一人位は心当たりがあるんじゃないんですか?」
気を取り直して、もう一度森脇に尋ねてみる。森脇とて、一級品の音楽人である。誰か一人位の名前は出るのではないかと思ったからだ。
「そうだな、腕のいいギタリストと言って思いつくのは、アイツか………」
思った通りだ。それが聞きたかったんだよ森脇さん。本田は、そんな視線を再び森脇の方へと向ける。
※「ジミー・ペイジ!」
「ムリです!」
森脇の答えに、本田と陽子が間髪入れずに二人揃ってツッコミを入れた。
「仕方ありませんね……本番までは、まだ時間があります。ギタリスト捜しには我々も全力を挙げて協力しますから」
そう何もかも簡単にはいかないか………ライブの成功には、まだいくつもの越えなければならない障害がある事を、本田は改めて思い知った。
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※【ジミー・ペイジ】
英ハードロック界の雄《レッド・ツェッペリン》のギタリスト。ジェフ・ベック、エリック・クラプトンと共にロック三大ギタリストの一人に数えられる。



