「それから、もう一つ。トリケラトプスの出演に関しては、我々の番組告知の時まで他言無用でお願いします」
プロデューサーの本田としては、ライブの目玉であるトリケラトプス出演告知のタイミングは、番組の数字を獲る為の重要な戦略のひとつである。告知前に情報が漏洩する事は、なんとしても避けたかった。
「分かった。約束しよう、本田さん。
ところで、その事について俺の方からも条件がある」
森脇がライブの出演を決意した時、彼自身が一番気にかけていた問題がひとつあった。その事を本田に伝える。
「ライブの事が告知されれば、当然マスコミでは晃が何故参加していないのか?という事がクローズアップされるのが必然だと思う。そして、やがてはアイツが死んだ事も公になるだろう………しかし、そこまでにして貰いたい。晃がギターを弾けない事を苦に自殺した事は、マスコミには伏せて貰いたいんだ」
森脇がトリケラトプスの解散を決め、それを前島に伝えた時、彼と交わした約束に森脇は拘った。それと同時に森脇自身、前島の自殺がマスコミの好奇の目に晒される事は、どうしても堪えられなかった。
その気持ちは、本田にも伝わったのだろう。本田は、その場で森脇の出した条件を承諾した。
「分かりました。幸い、その事を知っているのはトリケラトプスのメンバーと事件に関わったほんの一部の人間だと聞いています。それなら、マスコミには病死という事でウチの方から発表するように手を打っておきましょう」
「悪いな、テレビ屋のアンタにそんな嘘までつかせて」
「いえ、ウチは報道部じゃありませんし」
そう言って、本田は笑った。
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