まるで古谷に対し「古谷よ、音楽界を舐めるんじゃねぇぞ!」とでも言わんばかりの本田の口ぶりに、古谷は語気を強めて尋ねた。


「いったい誰だよ!その、とびっきりってのは!」


すると、古谷の問いに対し本田は、あるロックバンドの名を口にした。





「伝説のロックグループ
トリケラトプス!」




本田がその名を口にした《トリケラトプス》とは、80年代に日本中の若者を熱狂させた四人組のスーパーロックバンドの名前だった。


当時リリースした曲はすべてがミリオンセラー、ライブの観客動員数も群を抜く勢いで、その人気はもはや国民的だったと言っても過言では無い。


そして、そんな人気絶頂のデビュー三年目に、ある理由で突然の解散により音楽界からぱったりと姿を消してしまった事も、このロックバンドを伝説と崇めるひとつの要因と言えた。


「何、本田君!トリケラトプスをステージに立たせるの?」


意外にも、誰よりも最初に興奮気味にこの話に食い付いたのは、局長だった。


実を言うと、局長も若かりし頃トリケラトプスを熱狂的に追い求めたファンの一人であった。


「この夢のステージには、彼等こそが相応しいと私は思います」


本田は、そう答えた。


「よし!じゃあ、テレビNET50
周年記念特番は音楽部門に任せようじゃないか!」


その声に、古谷、松本、田中の三人のプロデューサーはがっくりと肩を落とす。


完全に乗り気な局長の、鶴の一声には他の三人のプロデューサーが抗える筈が無かった。



.