家に帰りながら少女のことを考えていた。
ああやってしっかりと他人と話すのは久しぶりだった。ここ最近、他人との接触は最低限に抑えてきたからだ。それは他人に迷惑をかけないために僕ができる最大限のことだったし、僕はそうすることで自分と話す時間を得たかった。しかし、僕の中で行われる話し合いは思った以上に難航していた。そんな中でのあの少女との会話は僕にとってとても心地のよい安息だった。少女の喋り方、仕草、息遣いはなぜかなぜか僕をとても落ち着かせた。それはとても懐かしい感じに思えた。
そんなことを考えながら僕は自宅へ到着した。時計は7時を過ぎたところだった。自分の部屋に戻ると僕はベッドに横たわった。
そして再び彼女のことを考えていた。はじめ、彼女と出会ってからは彼女は僕にとって特別な存在ではなかった。類まれな美しさをもっている訳でもなく、抜群にプロポーションがよい訳でもなく、どこにでもいる平凡な女性に思えた。しかし、その考えは改められることとなった。僕はいつしか彼女に魅かれていた。彼女は今まで遭ったどんな女性よりもはるかに魅力的だった。

僕は初めて恋といわれるものを経験した。

ただ、それは僕がそれまでに女性と交際をしたことがないことを意味するわけではない。
むしろ、この世の一般的な19歳の男性よりはよほど多くの女性と付き合ってきたと自負している。そして、どの女性も愛していた。しかし、彼女に恋をしてから考えてみると僕は本当に心からその女性達を愛していたのかと聞かれると自信がない。僕は恋とはもっと割り切ったものだと思っていた。愛を提供する代償として愛を受けることができる。それが綺麗な女性であればある種の優越感を得ることができる。そして、性的な欲求を満たすこともできる。その程度のものだと思っていた。だから去っていく女性を無理に引き止めることもしなかったし、あちらからやって来る女性を拒むことも基本なかった。だから、相手にふられたことぐらいで泣き叫ぶ女性をみては疑問に思ったものだった。よくそこまで、夢中になれるものだと思うと同時に自分には到底無理だろうなと思った。

そんな僕にとってはじめての恋は非常に衝撃的なものだった。まるで心臓が何者かの手で鷲掴みにされているかのような苦しさがあった。