朝、目を覚ます。
体が重たいのはいつものことだ。
あの日以来気持ちの良い朝というのは経験していない。
僕の体は重力だけを鋭敏に感じ取る。
こんな朝がいつまで続くのだろうか・・・・
そんなことを考えながら僕は携帯電話を手に取った。
8月5日午前6時12分
僕は重力に逆らい体を起こすと音をたてないように階段をおり玄関から外に出ると、近所の公園へ向かった。家を出て右にまっすぐ進み交差点を右に曲がる。そこには、彼女と何度も訪れた馴染みの公園がある。
公園に到着すると僕はベンチに腰を下ろした。彼女を失ってから僕が外に出るのは唯一この公園へ来るときだけだ。
人は簡単に崩れる。それでいて崩れたものを建て直すのには馬鹿みたいに時間を浪費する。答えのないことに答えを求めてはいつしか忘れてしまうのだ。では忘れられないほどの苦しみはどうすればよいのか。
僕はその答えを見つけられずにいた。はたしてこの迷路には出口があるのがろうか。この苦しみが終えて涅槃にいたる時はくるのだろうか。そんな途方もない考えを僕は繰り返していた。
「ねえ。」
ふと我に返り顔を前にやると、僕の前では一人の少女が立っていた。
「やっと気づいてくれた。」
そう言うと少女はニコッと笑ってみせてくれた。
「お兄ちゃん、こんなところで何してんの?」
僕は答えにつまった。それは決してその問いへの答えがなかったからではない。その僕の様子をみて少女を首をかしげた。
「ああ、お兄ちゃんは考え事してるんだよ。」
「へえ、お兄ちゃんお名前はなんて言うの?」
またしても僕はあっけにとられてしまった。少女を僕が聞き取れなかったと思ったのだろうか繰り返した。
「お名前は?」
「進藤・・・・・。」
「下のお名前だよ。」
少女を少し口をふくらませてそう言った。
「涼・・・進藤涼。」
「かっこいいお名前ね、私は紫蘭っていうの。」
「いい名前だね、君はここで何してるの?」
そう聞くと少女を待ってましたといわんばかりに僕の隣に座り元気よく話し始めた。