長らく言葉を探すように黙っていたイルマが重そうに口を開いた。
「…あいつは少し…女好きでして…。」

罰が悪そうなイルマに明日香は
なんだ、と拍子抜けした。 

そのくらいだったら平気。いくら女好きとはいえ、私みたいなのには寄ってこないだろう。

「…それは…何かトラウマが?」

「は!?ていうか、思考を読むな!」

クスクス笑いのイルマに、これ以上心内を読まれまいと平生を保とうとしてプイと顔をそむける。

「…すいません。余計な事でしたね。でも、あなたは美人ですよ?」

「…お世辞はいいよ。」

「いえ、あいつが仕事する気になるくらいですから。」

イルマは少し微笑んでから
「あなたぐらいの人が沢山居たらアイツはもっと仕事するのに。」
と溜息をつく。

その探偵のことを何もかも分かってるみたいな口調だった。

一体どんな関係なんだろ。
夢の国の案内人と探偵…。
あれかな、イルマさんは夢の国に来る人と探偵の仲介人みたいな事をしてるんだろうか。

そういえば、珠樹さんがイルマさんと探偵は親友だって言ってたっけ。

「いえ親友というか…ただの同僚です。まあ仕事は違いますが。」

「へぇ……」
もう思考を読まれることに関しては諦めた。

同僚?
イルマさんはこの街には住んでいないと言ってた。この街に住んでいるのは人間ではない、とも。
じゃあ何で探偵はこの街に居るんだろう。

「探偵って人間?」

「そうですよ。えっと…以前一度仕事でここに来た時に、たまたまこの光景で。それを気に入ったアイツが他の光景に変えるのを拒んで住み着きましました。我々は皆迷惑してるんですけどね。」

迷惑と言いながら表情は至って穏やかだけど。
それにしても…
「探偵って権限強いんですね。そんなの拒んで替えさせないなんて。」

良くわからないけど、この街の住人はコロコロ変えられる世界で暮らしてる。探偵が住み着いたことで同じになったけど。
それで、力関係的にはやはり人間の方が強いのか…。

「この街の景観は我々が決めるんですが、アイツは残念ながら役職がかなり上の方で。だからアイツが言い出したら皆従わざるを得ないんです。」

「うわ、まじで面倒くさいな探偵…。」
居るわ上司にそういう奴。
自分の意見を権力使って押し通すって本気で嫌われるキャラだ。

「本人は、権力や役職なんて普段はどうでもいいと言ってるんですが、乱用してます。」

「…その人に会いに行くんですね。」

「まあ、探偵としての腕は確かですから。」

探偵をフォローしたのだろう。だがそれはイメージ回復には残念ながら繋がらなかった。

もういい。なんでもいいからそいつに会って帰ろう。

この世界に入った時から崩れだした夢の世界はとうにさら地になっていた。