いきなり下の名前で呼ばれた事に多少戸惑いながら、問いかけを頭で反芻させた。

悩み?

「あれ、聞いてない?この世界に来れる人間はな、みんな自分だけで手に負えん悩み事しとる奴なんや。」
頭の後ろに手を組んで楽しそうに珠樹が言う。

「悩み事…。」
すっかり忘れてた。事件だったんだ。
それで頭を悩ましてる時にカードが来て…。だからこの世界に来たんだった。無理矢理連れて来られたんだけど。

「事件の真相解明を名探偵にお願いしようと思って。」
「名探偵?…うげ、アイツかいなっ」
「知ってるの?」
「知ってるもなにも…。」
珠樹は苦いものを食べたかのように顔を歪ませ、首を左右に振った。
「やめときやめとき。ほんまろくな事ないでぇ?」

ひどい嫌われようだな。この人に何したんだ名探偵。性格悪いのかなぁ、やっぱ。これから会うのになんか不安になってきた。

「こらこら、変なこと吹きこむんじゃない。そんなこと言うのはお前くらいだぞ?」
ずっと黙って傍観していたイルマが珠樹を止める。

「みんななぁ騙されとるんやって。アカンでほんま。兄貴はアイツの親友なんやろ?やったら分かるんちゃうん。俺の味方とちゃうの?」

「悪いけどね。そんな悪い奴じゃ無いよ。ほら、もういいよ戻って。」
肩をすくめて促した。
「もうええもん!あんなぁ、明日香ちゃん気いつけや。あの変態に変なことされたら言うんやで?」
そう言うとブツブツ言いながら人型のままで家に入っていった。

今、なんかすごい事聞いた気がするんだけど…。
「変態?」
「…やっぱアイツ呼んだのは間違いだった…。」
ため息をついて、イルマは頭を抱えた。