「この子、ずいぶん悩んでるなぁ…。」
巨大モニターを見ていた茶髪の男が、1人の女性の情報を画面を操作して引き出した。
「えーと…警視庁の巡査で、駆け出しの女性刑事。現在、連日不眠不休で難事件の捜査に奔走中。悩みは寝不足が続いて肌が荒れっぱなしな事だって。なぁ、次の仕事には申し分無いんじゃないか?」
次々と映しだされてくる情報を見ながら、男は後ろに呼びかけた。
「…美人か?」
寝転がり顔に黒い帽子を乗せた男が眠そうな声をだす。
「お前な、いい加減いい年なんだからその判断基準で仕事決めんのやめろ。…まあうん、美人だな」
僅かな静寂の後微かなため息を漏らし、帽子を手に持って男は立ち上がった。
「…どいつ。」 




古賀明日香は久しぶりに帰ることを許された自宅で大きなため息をつく。
何か掴むまでは、とここ数日寝ないで捜査を重ねて来たが、限界だった。
「…どこからとも無く名探偵が現れて、『謎は解けた。犯人はあなたです!』ってさくさく解決してくれたらいいのに。」
ベットに倒れ込んだ明日香は、そんな淡い希望を鼻で笑って再びため息をついた。

子供の頃はこういう話が大好きだった。こんなキラキラした世界があるのかと子供心に身震いしたのを覚えている。だが今はただ馬鹿馬鹿しく思えた。警察の捜査に協力する探偵がどこにいると言うのだ。

刑事や容疑者達を前に謎解きをする探偵は、漫画や小説ではよく存在する。だが実際は探偵も民間人の1人でサラリーマンと同じ扱いになる。よって警察は民間人に捜査を依頼することなんて無いし、事件に関わらせない。

大体さぁ、そんな頭切れる人間がいたら民間で探偵なんてやってないでしょ。それこそ警察入って敏腕刑事やってたり、お偉いさんやってるよ。だからつまり…
「名探偵なんかこの世にいない!!」
ベットから見える天井を指さして明日香は声を上げた。