目の前には西園寺の顔があって、私は下を向いて恥ずかしいのを頑張って隠す。


「唯那、俺にドキドキしてんのか?」


西園寺は左の口角を上げてニヤリと笑う。


「答えろよ。」


私は恥ずかしくて何も言えずに居ると、西園寺の唇が私の唇にそっと触れた。


私は西園寺のキスを拒めるわけがなく、そのまま何度も角度を変えてキスをした。


「好きだ……」


そう言って、西園寺は私を強く抱き締めてくれる。
西園寺はずるい。こうやって私の心を奪っていくんだから。


「あーぁ、小道具がやりたかったなぁ。」


結局、西園寺も一緒に練習することになったんだけどつい愚痴をこぼしてしまう。


「唯那は俺様が王子様やって、白雪姫を別の奴に取られたら嫌とか思わねぇのかよ。」


「うん、全然。今やりたいって子が現れたら喜んで差し出すよ。」


即答で言うと、西園寺はムスッとする。


「お前なぁ、即答すんなよ。それでも俺様の婚約者か?」


「そこは婚約者とか関係ないでしょ。」


「いや、あるから。唯那は俺が他の女とキスしてもいいってわけ?」


「この劇でキスシーンはないから!」


私はこの台本を読み通していたので、キスシーンがないことは知ってた。