目から頬を伝って床に落ちていく涙。
「悔しいよ……っ」
彼女が言う“悔しい”は今の俺との勝負のことだけではないだろう。
きっと止まってしまった時間の分と
その時、吐き出せなかった気持ちが蘇って涙を流させる。
分かるよ、沙奈の気持ち。
よく分かるよ。
俺は彼女の頭を優しく、ポンっと叩いた。
「好きなもの……嫌いになるのは辛いよな?」
ぽろぽろと流れ出る涙。
彼女はこくこくと頷いた。
「俺もあるから……。バスケ嫌いになったこと」
すると、沙奈は自分の手を強く握った。
「俺さ中学2年で試合のスタメンに選ばれてさ……
嬉しくて、絶対勝ってやるって毎日毎日練習したんだよ」
自分の過去をこうして人に話すのは初めてだった。
「一所懸命やって誰よりも努力してさ、それでちょっと無理しすぎたんだよな……
体調崩しちまって、1週間学校を休んだ」
話す時、絶対に思い出す嫌な気持ち。


