私は、違和感を憶えた。
否、気付いてしまった。


彼を待っているこの教室に、何故か誰もいないということに。



その事実に、私の頭の中で浮かんだ友人の顔。
絶対に彼女だ、なんて確信しても、もう遅い。


今手に持っている紙袋は彼に渡すしかないし、告白をするしかないのだ。



まぁ、どうせ告白はすることになるのだから、教室に誰もいないのは嬉しい。
素直に、友人に感謝しなければ。


……なんて考えながら、前髪を整えたりしていると、後ろの方から音がした。

びくっとして反射的に振り向いてみると、そこにいるのは勿論、彼。


顔を見合せ、一瞬の静寂。

そのうち、ふっと外されてしまった目線。

教室に入って鞄を手にした彼を、私はただ見ていた。


「まだ、帰らねえの?」


ちょっと乱暴な言葉使いな、私に向けられた言葉。
私はまたびくっとして、体を小さく揺らす。


「あ……いや、もう帰るよ。これから部活?」
「おう」
「そうなんだ、頑張って」
「ありがとな。あ、教室の鍵閉め頼んでもいい?」
「あ、うん。わかった」
「ごめん、お願いします」
「いえいえ」
「ほんとありがと。じゃあな」
「あ、ねぇ、ちょっといい?」
「ん?」
「バレンタインだから、これ、あげる。……あと、」




「好きです」