俺は鞄を持ち、由紀と平沢が
教室内を覗き込んでいる方の扉から出た。
太一はこの二人に気付いているのか否か、
机に突っ伏したまま、窓の方を見ている。
俺らはスッと、太一から見えない、
死角になる位置に立ち、小声で話す。
「すみちゃん頑張ってね!」
「うん、由紀ありがと。
…一応相沢も。
っていうか、意外にもみんな、
教室から出んの早かったから
わざわざ呼び出すまでもなかったね」
平沢は早口だ。
そこで、普段は下ろしている髪が
丁寧に編み込みされていることに気づいた。
この日のためって、やつかな。
「確かにね〜。
逆に、告白に使われてたりして」
「あり得るかも。
じゃあ、由紀と相沢、良いバレンタインを。
バイバイ」
良いバレンタインを。
…平沢と太一も、そうなるように願う。



