「お前が遅いからだろ」



「えっ?」



「俺は腹減ってんだよ。糖分足りてねぇんだ。早くドーナツ食いにいくぞ。ほら」



そう言って先に目を逸らし、差し出してきたのはあたしのカバンだった。



……わざわざ持って来てくれたの?




「ごめん。日誌出すのに手こずった」



言い訳しながら、そのカバンを受け取る。



そのとき気づいた。自分の手が震えていることに。



あたし、冷静を装っていたけどもしかして怖かったのかな?


うわ、あり得ない。あんなので怯えたりしないし。


無理やり自分に言い聞かせる。




「なにお前、震えてんの?」



佐野の声にハッとして、あたしはすぐさまカバンを持った手を後ろに隠した。



「別に、全然。あんなのどうってことなかったし。佐野に助けてもらわなくても、どうにかできてたし」