「日を重ねるごとに、俺の中で仁菜の存在が大きくなっていった。
めっちゃ大切にしたいって思った。こんなに俺のこと想ってくれる子を、手放したくないって……。けど、」
「……?」
「仁菜の、俺に対する理想に疲れちゃってさ……」
「え?」
不安だった種が、ひとつ、真実を告げて行く。
あたしの中で、先輩はヒーローだった。
廊下でガラの悪い人にぶつかって、困ってたあたしを助けてくれた、優しい先輩。
〝優しくて、大人っぽいヒーロー〟
「俺はそんなにいいヤツじゃない。優しさなんてこれっぽちもない。
腹黒いし、嫉妬もするし、我慢とか苦手で、いつだって仁菜に触れたいって思ってた」
けどそうすれば、仁菜は俺を嫌って、逃げて行くと思った。
目の前にいる自分と、仁菜が理想とする自分は違うから……と先輩は言う。
「それが怖くて、手をつなぐことも、キスもできなかった」
顔をあげて、あたしを見つめる先輩。
その目はひどく、さみしげに揺れた。
「〝本当の俺〟を、仁菜に見せることができなかったんだ」


